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Parsons,Talcott 1937 『社会的行為の構造』

http://www.amazon.co.jp/社会的行為の構造

 

 本書は戦後の社会学理論を考える上で不可欠といっても過言ではない一冊であり、社会システム理論(ルーマン)、相互行為論、エスノメソドロジーなどは本書におけるパーソンズの発想を踏襲、または叩き台にして発展を遂げた。初期社会学の名著をデュルケムやヴェーバーに求めるのであれば、中期の名著としてはまず間違いなく本書の名前が挙げられるべきだろう。

 

※5分冊にも及ぶ長編、というかもはやそれぞれ独立した趣さえある著作となっているため、ここでは第1分冊における「総論」の箇所をまとめる。


 

◆実証主義vs理想主義

 もともと経済学を学んでいたパーソンズだったが、社会を考える上で経済学的発想の限界を感じ、社会学に転向したとされており、彼のこうした経歴は本書における根本的な発想にも色濃く反映されている。パーソンズの疑問の一つは経済学が用いる社会モデル―功利主義的前提が抱えるジレンマにあった。

 功利主義の発想には2本の柱がある。1本目の柱は「因果論的な説明」である。因果論的な説明とは「お腹がすいた→ご飯を食べる」、「空が曇った→雨が降る」といった行為と自然環境や物理学的世界の因果関係を説明するもので、古くから自然科学―実証主義によって用いられてきた考察方法である。これに対する2本目の柱は「観念論的な説明」であり、パーソンズはこれをM,ウェーバーによる理想主義に代表される発想であるとしている。因果論的説明が事象間の因果関係を問うのに対して、こちらは観念的な領域―人の主観的観点を扱う。功利主義が実証主義と区別される点はまさしくこの観念論的な説明を試みているところにある。しかし、この両者は以下の4つの係争点においてパラドックスが生じているとパーソンズは指摘する。

 

①目的のランダム性

 功利主義において主観が反映されるのは、目的の設定においてのみであり、「主観的」な営みである点において目的の設定はランダムネスなこととなる。しかしこの時、目的が別の目的のための手段だったとしたらどうなるだろうか。功利主義の前提として目的は合理的でなければならないため、そこにランダムネスな目的の設定が入り込んではならないのだが、ある目的が別の目的のための手段であり限り、手段の段階に主観が入り込むことになるため、矛盾が生まれてしまうことになる。

 

②目的のランダム性(2)

 目的がランダムネスなものならば、目的の設定を説明できるのはそれと脳科学的条件・環境的要因との因果論によってということになる。この場合、意志というものは存在せず、人間は本能によって行動する動物と同じということになってしまう。また実証主義的発想から抜け出すこともできない。

 

③目的の合理性

 では、目的の設定も合理的に設定されると考えてみてはどうか。このとき、手段―目的または目的―別の目的という関係性は因果的なものとなるため、結局この場合でも純粋な実証主義に陥ってしまうことになる。

 

④超越的他者の設定

 因果論を離れ、人の目的を規定する「なにか」―つまり神や運命といったものを想定することもできるだろう。それはしかし、もはや経済学、社会学の領域を超えた議論、形而上学的議論になるだろう。

 

 

◆秩序問題

 さてこうした矛盾を抱える功利主義であったが、そこに足りないものあるいは加えるべきものを考えるために、パーソンズはかの有名な秩序問題(ホッブズ問題)という思考実験を用いる。T,ホッブズがかつて看破したように、各人が自らの因果論的な合理性のみに基づいて行為をしている社会は「お腹がすいた→窃盗」、「腹が立った→殺人」といった具合に自然状態に陥ってしまう。つまり、ここには因果関係を超えた何らかの力が作用しているはずである。パーソンズはその力として「価値的態度」の存在を挙げる。価値・規範的な態度を各人が内面化していることによって、先の「窃盗」や「殺人」は「逸脱」として負のサンクションが加えられることになり、かくして社会秩序が成立するというのがパーソンズの秩序観である。そして、因果的な合理性を「目的合理性」、それに対する規範や価値に従う合理性を「価値合理性」と定義した。パーソンズはこのように人のもつ意志や意図といった主観に焦点を当てたため、先に出てきた「理想主義」や「じsっ要主義」との対比の中で「主意主義」的社会学と呼ばれるようになる。

 この価値合理性は(おそらくパーソンズのように明確には意識されていなかっただろうが)、実際にヴェーバーがいう「プロスタンティズムの倫理」やデュルケムの「集合表象」といったアイディアの中に見ることができる。

 

 

◆分析的リアリズム―行為システム

 パーソンズといえばシステム理論を確立したことで有名だが、その前提としてあったのは分析的リアリズムというある種の厳格な態度だった。社会というものを科学によって記述する際、それは曖昧な日常的言語とは違い、一貫性をもった概念システム、すなわち理論システムが必要であるとパーソンズはいう。そしてこの厳密さに基づいて行為モデルのアイディアは誕生した。

 

↑パーソンズの行為モデル

 

 先述のとおり、経済学的モデル―目的合理性の理念系では「手段―目的」が因果論的な「条件」によってのみでしか語ることができなかった。しかし、そこに価値システムの存在を想定することで価値合理性をこのモデルに取り入れることが可能となり、社会学的な記述が行えるようになるのである。右の「意志」というのは、個々人のもつ主観的な領域であり、条件から価値システムに近づくにつれて強まると考えられる。

 こうした行為や社会を文字通りシステマティックに記述していく方向性は戦後、システム論―機能主義によって担われていくことになる。

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