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Frege,Gottolob 1879→1999 『概念記法』

ゴットロープ・フレーゲ 1879→1999 『概念記法』

 

Ⅰ 表記の説明p.10

[1節]

○本稿では、従来的な数学記号(a, b, c, +, -, √や1, 2, 3など)が論理式において不十分であるとする。

→むしろこれらより包括的で一般的な論理形式を指示する表記が用いられる。

 

 

判断 p.10-14

[2節]

○本稿において真/偽に関する判断を示すためには記号、

│―― A

を用いる。一方この記号結合においてこのように垂直線が取り払われると、

―― A

真偽の判断から単に表象の記述に移行したことが示される。すなわち後者では「~ということ」や「~という命題」などの記述の形式となる。

 

○このときAは名辞ではなく命題である必要があり、例えば「家」などは概念記法の対象になりえない。

○また垂直線を判断線、水平線を内容線と名付ける。

 

 

[3節]

○前述の判断には主語-述語の区別は現れない。というのも、

①「他の判断と結びついた、判断から導出される帰結」もしくは「同じその判断と結びついたもう1つの判断からの帰結」

②これが事実でない場合   

2つの判断の内容が異なることになる。

→例えば命題「ノルマンディー上陸作戦でアメリカ軍はドイツ軍に打ち勝った」と「ノルマンディー上陸作戦でドイツ軍はアメリカ軍に打ち負けた」は記述としては異なるが、指示する表象内容はほぼ同じである。

→こうした命題内容の重複は「概念内容」が共通しているから起こり、概念記法において注目されるのはこの概念内容のみである(主語-述語の区別に関心は払われない)。

 

 

[4節]

○ある判断およびその表象(命題)は全称/特称、そして否定をすでにそのうちに内包している。

→例えば命題「今日の東京の空は青い」は「青い空もある(特称の内包)」や、「全ての空が青いわけではない(全称と否定の内包)」などと記述を改めることができる。ちなみに前者の場合は特称肯定判断と呼ばれる。

→こうしたことから全称/特称、否定とは「判断可能な内容」(判断それ自体ではない)であるといえるだろう。

 

○必然的判断とは推論を導出する際に必然的命題・表象が背景にあると考えられる判断であり/確定的判断とはそうした必然性が観察されない判断である。

→しかし概念記法において関心の対象は概念内容であり、必然的/確定的かということは特に重要ではない。

 

 

条件法 p.15-21

[5節]

○要素命題AとBが判断可能な内容を有するとき、この複合命題を概念記法においては、

│――――A

  │――B

と記述される。またこの場合の真理値としては、

(1)Aが真 ∧ Bが真

(2)Aが真 ∧ Bが偽

(3)Aが偽 ∧ Bが真

(4)Aが偽 ∧ Bが偽

の4通りをとり「B→A」が真となるのは、このうち(3)の場合以外である(そのほかはどれもB→Aが真)。

○逆を返すと表象

―――――A

│――B

が否定されるのであれば、真となるのは(3)の場合のみである。

 

○またAとBの表象が肯定される場合、強調されるのは以下の3点である。

(1)[Aの内容が肯定される/Bの内容はAの肯定に関係ない]

○│―Aの内容が「3×7=21」であり、Bの内容が「地球は太陽の周りを公転している」であったとき、両者に因果論的関係性は認められないため自然言語における「ならば」の用法とは異なる。しかし、これは概念記法的には誤りではなく、条件法における要素命題間に因果性は必要ない。

→(1)と(2)の場合のみ。

 

(2)[Bの内容が否定される/AはBの否定に無関係である]

○Bの内容が「永久機関は可能である」であり、│―Aの内容が「世界は無限である」であるとする。この場合も両者に関係性はなく自然言語的用法とは異なるが、概念記法においては認められる。

→これが可能となるのは(2)と(4)の場合のみである。

 

(3)[AとBの真偽を知らないとき、両者間の判断]

○要素命題であるAとBの真理値を知らなくとも、人は判断

│――――A

│――B

を下すことができる。例えば要素B「月は太陽の矩象関係である」ならば要素A「月は半月形である」となる。

→これは日常的語法としての「ならば」であり、要素命題Bが真と思われたならば、必然的帰結としての要素命題Aが条件法によって導出されることになる。

→こうしたBとA間をつなぐ垂直線を条件線と呼び、条件線左上の水平線は「B→A」の(複合命題全体を指示する)内容線である。いくつか例を以下に提示する。

 

(1)              │―――――――A

│ │―――B

│―――――Г

○この場合では、先の(3)の場合が避けられるため、「BとГが真→Aが偽」は否定されることになる。手順としては最初に

 ――――A と Г

│――B

が区別されて考えられ、次に「Bが真」→「Aが偽」の場合が否定される。つまり[¬(B→¬A)]となり、最後に「Гが真」が否定され、ゆえに先述の通り[¬(B∧Г→¬A)]という帰結に至る。

また同様に、

(2)                │――――――Г

│―――A

│――B

○この場合では「Bが真→AとГが偽」が否定されることになる。すなわちまず¬B(Bが真の否定)がされ、次に[¬(¬A∧Г)](AとГが偽の否定)。よって[¬(B→¬A∧Г)]となる。

 

 

[6節]

○判断、

│――――A と │――B

│――B 

から判断│――Aを導出することができる。つまり、

│――B

から先述の場合(2)と(4)がまず排される(Bは真の値をとる)。次に、

│――――A

│――B

から(3)の場合は有りえない(条件法においてこの可能性はそもそも想定できない)。ゆえに要素命題であるAとBが両方真である(1)が支持されることになり、判断│――Aが導出される。

→このことは概念記法を用いて、

│―――――A

│―――B

│―――B

__________

│―――A

と表記されるが猥雑になりかねないので、以下では略記し

│―――B

(X):――――――

│―――A

と表される。(X)も判断を表し、今回の場合ではここに判断(B→A)が当てはめられることになる。

 

※ちょい休憩。このままフレーゲの概念記法をそのまま模写しつつメモしていくことは(主に分量とフォントの問題で)不可能に近い。というか当時ならともかく今日でも印刷費用が高騰する複雑(でクソみたい)な表記法に従う道理がないし、実際に今の論理学では誰も使っていない。

→概念記法での主張は命題論理学の記述子¬、∧、∨、⊃と、述語論理学の量化記述子∀、∃に全て還元可能とのことなので、以下では随時フレーゲの記法を現代論理学の記述子に変換しつつ(クソ難易度高い)メモをとっていく。

 

否定 p.21-27

[7節]

○概念記法における否定は、

│―|―A

このように内容線を中断する短い線によって表記される(この場合¬A)。

 

○また条件法と組み合わせると、命題「B⊃¬A」(BならばAではない)においては、「Bが真でAも真(両立して肯定)」が否定されるので。表記すると、

B⊃¬A

となり、よって残りの3通りが支持される。

○また命題「¬B⊃A」においては「Bが偽でAが偽(両立して否定)」が否定されるので、表記すると、

¬B⊃A

となり、残りの3通りが支持される。またこの場合の概念記法は、

 │―――――A

│―|―B

となる。

 

[選言について]

○また選言「または」は、記述子を用いると「B∨A」。しかし日常的語法としては2通りあり、

①「¬B⊃A」だけを意味する語法

②「¬B⊃A と B⊃¬A」の両方を意味する語法 がそれである。

→概念記法においてはAとB両方が否定されていない前者が重要であり、ゆえに選言「または」とは命題「¬B⊃A」と同義である。すなわち(¬B⊃A)=(B∨A)。

→複合命題としての選言は「要素命題のどちらか(もしくは両方)真ならば複合命題も真」を意味するので、(¬B⊃A)が適している。もちろん命題(¬B⊃A)の真理値表と命題(B∨A)の真理値表は同様の値を示す。

→同様に命題[(B∨Г)∨A]ならば[¬(B∧Г)⊃A]と置換できる。

 

[連言について]

|―|――|――A

  |―――B

○上記の判断は複合命題(B⊃¬A)が否定されることを意味し、ゆえに¬(B⊃¬A)となる。これを順に見ていくと、

まず複合命題(B⊃¬A)を考える。前述の通り、

 |――|――A

|―――B

における3通り(Aが真/Bが偽、Aが偽/Bが真、AとBが偽)がまず肯定されることになる/「AとBが真の場合」が否定される。

→次に(B⊃¬A)が否定される[¬(B⊃¬A)]ことになるため、結果が裏返り唯一「AとBが真の場合」のみが肯定されることになる。

→そして要素命題のAとB両方が真のときのみ、複合命題が真となるような命題を「連言(かつ、しかし)」として表記することができる。

→すなわち命題[¬(B⊃¬A)]は命題(B∧A)と同義。

 

 

内容の相等性 p.27-29

[8節]

○内容の相等性の問題は「命題の内容」に関わるのではなく、「名前の内容」に関わるものである。

→そのため思考の相等が問われているのではなく、表現の相等が問われているとまずは解釈されるべきだろう。

 

○一般的に同一の対象を異なる名前によって表現することは内容に思えるが、これは以下の経験的論拠により反証される。

→頂点ABCからなる三角形を考える。線分BCが底辺となるとき、「線分BC」と「底辺」という2つの異なる名前が同一の線に与えられていることになる。

→概念記法において一般的に(A≡B)という表記によって内容的相等性が意味される。

 

 

 

関数 p.29-34

[9節]

[命題]「炭素ガスは水素ガスよりも重い」

○このうち名辞「炭素ガス」を異なる名辞「窒素ガス」に置き換える。

→このとき「xは水素ガスよりも重い」が命題における固定的な記述―関数となり、名辞が当てはめられる可変的な記述“x”は変項となる。

 

○しかし以下のようなケースには注意が必要である。

[命題]「数20は4つ平方数の和である。」

[命題]「あらゆる正の整数は4つの平方数の和である。」

→両命題において「数20」と「あらゆる正の整数」が同じく変項であるかのように錯覚するが、これは誤りである。

→「数20」と「あらゆる正の整数」は異なる集合(class)の概念(この場合「数20」は「あらゆる正の整数」の部分集合)であり、前者がそれ単独で表象を生み出すのに対し、後者はコンテクストに依存しなければ表象を産出しない(これはたぶん項xと量化子項[∀x]の違いでもある)。

 

 

[10節]

○こうした関数-項による命題を一般化して表記すると、

φ(A)

となり、この場合はAが項でφが関数となる。また同様に、

ψ (A,B)

では項AとBの関係が関数φによって表現されることになる。このことからψ(A,B)とφ(B,A)は異なる命題であるともいえる。

○これは概念記法においても変わらず、これら命題の判断は、

|―――φ(A)

や、

│―――ψ(A,B)

などと表記されることになる。

 

○φ(A)は、φがψやξなど様々な関数に代替される可能性に開かれている。しかしこの場合(A)という項の関数による表記が変化することになるので、その点においてφ(A)がφの関数であるといえるだろう。

 

 

一般性 p.34-42

[11節]

○概念記法において、全ての項aに関数φが妥当する場合、以下のように表記される。

|――a――φ(a)

→これは現代の量化子[(∀a)φ(a)]と同義(たぶん)。

 

○しかしφに特定任意の関数Xを代入すると、何らかの同定が行われることになるため、以下のような記述に改められることになる。

│―|―a――X(a)

もしくは、

│―――――――A

        │―a――X(a)

→前者の場合、全てのaにはXが該当しない[¬(∀a)X(a)]ことを意味する。後者においては、全てのaにXが該当するか否かに関わりなく[(∀a)X(a)が真でも偽でも]、Aが真ならば複合命題全体は真になることが意味される(条件法の複合命題が偽になるのは(∀a)X(a)が偽/Aが真のときのみ)。

→すなわち“a”の記述よって、当該の複合命題の内部における変項“a”に適用される「一般性の範囲(集合class?)」が規定されているのである(どこまでをaの∀とするのか/∃なのか)。

○もっとも上述の条件法の場合には、X(Δ)の項“Δ”に条件法的整合性を損なわない意味があてがわれる必要がある。

 

○またこのことは集合(∀a)におけるaの一般性には、bやcといった異なるクラスの変項が含まれないという論理的帰結をももたらす。

→例えば複合命題[(∀a)X(a)⊃(∀c)Y(b,c)]においては、(∀a)の一般性と(∀c)の一般性が異なる集合に属していることが含意される。

→さらに換言すれば命題X(Δ)において(Δ)の場所にしか変項“a”が現れないのであれば、X(a)を(∀a)X(a)と記述を改めることができる。このことを概念記法では、

|―――X(a)  と |―a―X(a)

が(関数Xに対する項としてのみaが現れる場合に限り)同義であると説明できる。

 

 

[12節]

○さらにここまでで見た量化子の公理を用いて、以下のようないくつかの定理を発見することができる。

(1) |―|―a―X(a)

→現代の量化記述子を用いれば[¬(∀a)X(a)]となり、「全てのaが性質Xを持つとは限らない」すなわち「性質Xを持たないaも存在する」と表現することができる。

→すなわち[¬(∀a)X(a)]は存在量記号“∃”を用いて[(∃a)X(a)]に変換できる。

 

 

(2)                             │――a―|―X(a)

→この[(∀a)¬X(a)]は先の(1)と非常に似ているが、命題としては全く異なる内容をもつ。こちらの場合、否定がかかるのは普遍量記号∀ではなくX(a)それ自体なので、「aがどのような値になろうとも、aは性質Xを持たない」と表現される。

→仮に「性質Xを持つ∀a」をαと呼ぶならば、「αは存在しない」とも表記できるだろう。

 

 

(2´) │―|―a―|―X(a)

→先ほどの定理に関連して、この場合では(2)がさらにもう一度否定されることになる。つまり¬[(∀a)¬X(a)]。こちらは「aがどのような値になろうとも、aは性質Xを持たない」ことが否定されることになるので、[(∀a)X(a)]もしくは[(∃a)X(a)]となる。

 

 

(3) |――a―――P(a)

│―X(a)

→条件法の真理関数より、「要素命題[(∀a)X(a)]が真」かつ「要素命題[(∀a)P(a)]が偽」の場合以外はすべて複合命題が真となる。つまり命題「全てのaに性質Xが認められない、かつ性質Pは認められない」は偽である。真理値表では、

(∀a)P(a)

(∀a)X(a)

(∀a)X(a)⊃(∀a)P(a)

となる。

→最初の場合「全てのaは性質XとPを併せ持つ」、二番目の場合「aが性質Xを持たないならば、性質Pを持つ」、四番目の場合「aが性質Xを持たないならば、性質Pも持たない

」とそれぞれ表記することができる。

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